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東京地方裁判所 平成12年(ワ)8089号 判決 2000年12月18日

原告

株式会社整理回収機構

右代表者代表取締役

右代理人支配人

右訴訟代理人弁護士

佐貫葉子

西畠義昭

板澤幸雄

藤田嗣潔

池田秀雄

被告

埼玉県信用保証協会

右代表者理事

右訴訟代理人弁護士

木村一郎

藤井公明

主文

一  被告は、原告に対し、金七六〇三万円四四一〇円及びこれに対する平成一〇年一〇月一三日から支払済みまで年六分の割合による金員を支払え。

二  訴訟費用は、被告の負担とする。

三  この判決は、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求

主文第一項と同旨

第二事案の概要

本件は、破綻金融機関から債権譲渡を受けた原告が、信用保証機関である被告に対し、保証債務の履行請求として右請求金七六〇三万円四四一〇円及び右請求後の日である平成一〇年一〇月一三日から支払済みまで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金の支払を求めている事案である。

一  前提事実

以下の事実は、当事者間に争いがないか、又は末尾に掲げた証拠により認められる事実である。

1(一)  原告は、特定住宅金融専門会社から譲り受けた貸付債権その他の財産の管理、回収及び処分を主たる目的として特定住宅金融専門会社の債権債務の処理等に関する特別措置法二条二項に基づき設立された株式会社住宅金融債権管理機構と破綻金融機関からの事業譲渡を受けて整理回収業務を行うことを目的として預金保険法附則七条に基づき設立された株式会社整理回収銀行とが、破綻金融機関との合併により承継し、又は破綻金融機関から買い取った資産の管理、回収等を業とするため、同法附則八条の二に基づき存続会社を株式会社住宅金融債権管理機構として、平成一一年四月一日に合併するとともに商号を現商号に変更してできた会社である。

(二)  被告は、信用協会法に基づき設立された公益特殊法人で、中小企業振興を目的に、中小企業者等が銀行その他の金融機関から貸付、手形の割引又は給付を受けること等により金融機関に対して負担する債務の保証をすることを主たる業務としている。

2(一)  平成二年一月二六日、株式会社北海道拓殖銀行(以下「拓銀」という。)は、有限会社大久保工務店(以下「大久保工務店」という。)との間で、左記の内容の当座貸越契約(以下「本件当座貸越契約」という。)を締結し、以後、同契約に基づく貸付を実行してきた。

(1) 貸越極度額 八四〇〇万円

(2) 利息 年六・八パーセント

(3) 契約期限 平成四年一月二五日

(4) 返済日及び利息支払日 毎月二五日

(二)  平成二年一月一八日、被告は、拓銀との間で、大久保工務店の右債務につき、貸越極度額を保証極度額、契約期限を保証期限等として根保証契約(以下「本件根保証契約」という。)を締結した。本件根保証契約は、被告と拓銀との間における保証に関する約定書(以下「本件根保証約定書」という。)、当座貸越根保証に関する覚書(以下「本件覚書」という。)及び当座貸越根保証要綱(以下「本件根保証要綱」という。)を内容とする。

3  平成四年一月、拓銀は、被告に対し、本件根保証契約の更新を申請し、同月二四日、被告は、保証極度額を八四〇〇万円、保証期限を平成六年一月二五日等として、本件根保証契約の更新を承諾した。これに伴い、拓銀は、大久保工務店との間の本件当座貸越契約を継続した。

4(一)  平成六年一月一七日、拓銀は、被告に対し、本件根保証契約の二年間(平成八年一月二五日まで)の更新を申請した。

被告は、拓銀に対し、本件根保証契約の更新はせず、大久保工務店に対する貸付を当座貸越から貸付額を確定した分割弁済契約に改めれば保証する旨指示した。

右指示に基づき、拓銀は、大久保工務店との間で、左記の分割弁済契約(以下「本件分割弁済契約」という。)を締結した。

(1) 貸付額 八四〇〇万円

(2) 弁済方法 平成六年六月から平成一五年一二月まで毎月末日限り二〇万円を弁済し、平成一六年一月末日限り六一〇〇万円を一括して支払う。

(3) 利息 年四パーセント

(4) 特約 支払の停止をしたとき等は、期限の利益を当然に喪失する。

(二)  拓銀は、本件分割弁済契約の内容を被告に提示して保証を申し入れ、被告は、これに応じて、平成六年二月一六日、本件分割弁済契約について保証した(以下、この保証契約を「本件保証契約」といい、これに基づく債務を「本件保証債務」という。)。

(三)  平成六年二月二五日、拓銀は、大久保工務店との間で、本件分割弁済契約の契約書を作成し、その実行報告書を被告に提出した。

5(一)  平成一〇年三月二日、大久保工務店は、東京手形交換所において不渡処分を受け、本件分割弁済契約につき、期限の利益を喪失した。この時点の本件分割弁済契約に基づく元本残高は、七五二〇万円であった。

(二)  平成一〇年七月二一日、拓銀は、期限の利益の喪失後九〇日を経過しても大久保工務店から支払がないので、被告に対し、本件分割弁済契約に基づく元本残高七五二〇万円及び約定の一二〇日間の貸付利率と同率の延滞利息八三万四四一〇円の合計七六〇三万四四一〇円の保証債務履行請求(以下「本件保証債務履行請求」という。)をした。

6  被告は、拓銀に対し、平成一〇年一〇月一二日付け保証債務免責通知により、本件保証債務残高全額を免責することを通知した(以下、この免責を「本件免責」といい、その通知を「本件免責通知」という。)。

7  平成一〇年一一月一六日、拓銀は、当時の株式会社整理回収銀行に対し、本件分割弁済契約に基づく債権及びこれに付随する一切の債権を譲渡し、同月一八日、その旨を大久保工務店に通知した(以下、この債権譲渡を「本件債権譲渡」といい、その通知を「本件債権譲渡通知」という。)。(≪証拠省略≫)

二  争点

被告と拓銀との間で本件免責につき合意が成立したか否か。

(被告の主張)

被告が拓銀に対して本件免責通知をしたころ、拓銀は、被告に対し、本件免責に同意し、これにより、被告と拓銀との間で本件免責について合意(以下「本件免責合意」という。)が成立した。

(原告の主張)

争う。

第三当裁判所の判断

一  争点について

1  本件事実関係

前記前提事実並びに証拠(≪証拠省略≫、証人D、同E)及び弁論の全趣旨によれば、本件根保証契約の締結から本件訴訟の提起までの経緯につき以下の事実(以下「本件事実関係」という。)が認められる。

(一) 被告と拓銀との間には、保証契約に関し、本件根保証約定書(これに事務手続要領が付随する。以下、右要領を「本件要領」という。)、本件覚書及び本件根保証要綱が取り交わされていた。

本件根保証約定書六条一項及び二項は、被告は、被保証債権について債務者が最終履行期限後九〇日を経過しても債務の全部又は一部を履行しないときは、拓銀の請求により拓銀に対し保証債務の履行をし、その範囲は主債務に利息及び最終履行期限後一二〇日以内の延滞利息を加えた額とすること、同一一条は、被告は、次の各号に該当するときは、拓銀に対し保証債務の履行につきその全部又は一部の責めを免れるものとし、各号の一として、二号は、拓銀が保証契約に違反したときとすること(以下、この免責規定を「本件免責規定」という。)を規定する。

本件要領九条は、本件根保証約定書一一条による拓銀に対する免責通知は、免責通知書により行う旨規定する。

本件覚書一条は、拓銀が被保証人と締結する当座貸越契約は、本件根保証要綱及び本件要領の定める範囲内において行う旨規定する。

本件根保証要綱一二項は、当座貸越に係る根保証は次の事由により確定するとし、事由の一として、同項(1)①は、根保証契約を更新しない場合とし、同項(2)は、根保証確定時の被保証債務の元本は、確定時までに発生している貸越金残額とする旨規定する。

(二) 平成二年一月一八日

被告と拓銀(草加新田支店が取り扱った。以下、右支店を「本件支店」という。)は、本件根保証契約を締結した。右契約に基づく被保証人である大久保工務店の拓銀に対する返済条件は、約定弁済(約定返済)であった。

(三) 平成二年一月二六日

拓銀と大久保工務店は、本件当座貸越契約を締結した。右契約に基づく返済の方法としては、約定返済(毎月の貸越残高に六〇分の一を乗じた額の一〇〇〇円未満の端数を切り捨てた額を返済する。)と随意返済(随時に任意の金額(一〇〇万円以上で一〇万円刻みの額)を返済する。)とがあり、前者は普通預金口座から返済額が引き落とされる。

(四) 平成四年一月

被告と拓銀は、本件根保証契約を保証極度額を八四〇〇万円、保証期限を平成六年一月二五日等として更新した。右契約に基づく被保証人である大久保工務店の拓銀に対する返済条件は、約定弁済(約定返済)であった。これに伴い、拓銀は、本件当座貸越契約を継続した。

(五) 平成六年一月一八日

拓銀は、被告に対し、本件根保証契約の保証期限を平成六年一月二五日から平成八年一月二五日に変更する保証条件依頼書を大久保工務店作成の保証条件変更申込書及び拓銀作成の信用調査書を添えて提出した。右保証条件変更申込書には、保証極度額八四〇〇万円、貸越残高八二五九万一〇〇〇円と記載されていた。

(六) 平成六年二月一六日

被告は、拓銀に対し、信用保証書を交付して、本件保証契約を締結した。右契約において、保証制度は当座貸越根保証(約定弁済確定型)、保証金額は八四〇〇万円、保証期限は平成一六年一月三一日、貸付形式は当座貸越、返済条件は分割弁済(三か月据置き一一六回払い。平成六年六月三〇日を初回とし、一か月毎に毎回三一日に二〇万円内入れとし、最終回は六一〇〇万円とする。)とされていた。

(七) 平成六年二月二五日

拓銀と大久保工務店は、「債務承認ならびに弁済契約証書」を取り交わして本件分割弁済契約を締結した。右証書には、本件根保証契約に基づき本件当座貸越契約により八四〇〇万円(現在残高八四〇〇万円)の債務を負担していることを承認する旨の記載があった。しかしながら、後日の調査の結果によれば、本件根保証契約の保証期限である平成六年一月二五日現在の本件当座貸越契約の債務残高は、八一一九万二〇〇〇円であった(以下、本件分割弁済契約の貸付額八四〇〇万円のうち右債務残高八一一九万二〇〇〇円を超える部分である二八〇万八〇〇〇円を「本件差額」という。)。

右同日、拓銀は、被告に対し、本件保証契約に係る貸付を実行したことを報告した。

(八) 平成一〇年三月二日

大久保工務店は、東京手形交換所において不渡処分を受け、本件分割弁済契約につき期限の利益を喪失した。この時点の本件分割弁済契約に基づく元本残高は、七五二〇万円であった。

(九) 平成一〇年七月二一日

拓銀は、期限の利益の喪失後九〇日を経過しても大久保工務店から支払がないので、被告に対し、本件保証債務履行請求をした。

(一〇) 平成一〇年九月二五日

被告のE業務統括部代位弁済課長(以下「E課長」という。)は、本件支店のF課長(以下「F課長」という。)に架電し、本件保証債務につき代位弁済拒否の可能性があること、その理由は、平成六年二月に本件当座貸越契約を本件分割弁済契約に切り替える際に、貸付額を二八〇万円程度超えて切り替えたことが判明したことであることなどを告げた。

本件支店は、拓銀本部担当審査役に対し、被告から右の連絡があったことを報告した。

(一一) 平成一〇年九月二八日

F課長は、本件当座貸越契約を本件分割弁済契約に切り替えた際の担当者であるG元課長(苫小牧支店勤務)に架電し、切替えの経緯を尋ねたところ、同人は、切替えにつき、事前に被告と打ち合わせ、被告の指示に基づき本件当座貸越契約の極度額である八四〇〇万円を本件分割弁済契約の貸付額にしたと思う、意図的に貸付額を増額した記憶はない等と答えた。

本件支店は、拓銀本部に対し、右の電話のやり取りのほか、右の経緯に関する記録がないこと、今後の対応として、被告の担当者と協議したいことなどを報告した。

(一二) 平成一〇年一〇月一日

被告のE課長及びH主査が本件支店に来店し、本件支店のD支店長(以下「D支店長」という。)及びF課長と面談した。E課長は、D支店長に対し、平成六年二月に本件当座貸越契約を本件分割弁済契約に切り替える際に、貸付額を債務残高に本件差額を加えた額とすることにつき被告と事前に打ち合わせた記録がない限り、虚偽申請となり、代位弁済を拒否すると述べた。これに対し、D支店長は、記録の有無を調べるが、仮に記録がなかった場合でも、現在の貸付残高から本件差額を控除した額を代位弁済してもらえないかと尋ねたが、E課長は、全額代位弁済か全額代位弁済拒否のいずれかであり、これでしか被告内部の決裁に上げられないと答えた。

本件支店は、右同日の支店長面談記録にE課長ほかと面談した記録を記載し、その中で、「大久保工務店代弁拒否の件 状況は不利 増額することを協会と事前に打合せした記録でもない限りは虚偽申請となり代弁拒否される公算大(しかも全額)。もう一度記録の有無を確認し、新たな証拠等でない場合には一部代弁を再打診するしかないか。(望みは薄いが)」と記載した。

(一三) 平成一〇年一〇月七日

E課長は、F課長に架電し、被告の正式決定として本件保証債務につき全額代位弁済を拒否する旨を伝えた。

(一四) 平成一〇年一〇月一二日ころ

被告から本件支店に対し平成一〇年一〇月一二日付け保証債務免責通知が送付され、D支店長及びF課長は、同通知上部にそれぞれ回覧印を押捺した。

(一五) 平成一〇年一一月一一日

D支店長は、拓銀管理部(東京)部長に対し、「(有)大久保工務店信用保証協会代弁拒否に至った経緯及び顛末報告」(以下「本件顛末報告書」という。)を提出し、これにより、貸出金の内容、今後の回収方針、取引先の状況、被告から代弁拒否されるに至った経緯及び支店意見を報告した。D支店長は、右支店意見において、要旨、平成六年二月に本件当座貸越契約を本件分割弁済契約に切り替える際に本件差額が生じた経緯は、記録がなく、関係者の聴取からもその詳細が判明しないが、当時の債務残高と貸越極度額の聞き違い又は確認不十分から生じたものと推測されること、今後、このような保証協会付貸出においては十分な確認をした上で処理すること、本件を教訓とし、授信取引については改めて見直しをし事故再発防止としたい旨述べた。

なお、D支店長は、本件免責通知を受けた後、右同日までの間に、被告に対し、本件免責通知に異議を述べるなどの格別の対応はしていない。

(一六) 平成一〇年一一月一六日

平成九年一一月に経営破綻が公表された後、再建策を模索していた拓銀は、その北海道部門を北洋銀行に、本州部門を中央信託銀行に、それぞれ営業譲渡した。それとともに、拓銀は、当時の株式会社整理回収銀行に対し本件債権譲渡をし、大久保工務店に対し本件債権譲渡通知をした。

(一七) 平成一一年一〇月一日ころ

株式会社整理回収銀行の担当者は、被告のE課長に面接して、本件免責通知の経緯を聴取した。その際、右担当者は、全額代弁拒否は納得できない、一部免責ではいけないのか、訴訟も考慮しているなどと述べたが、これに対し、E課長は、本件免責通知の経緯を説明するとともに、代弁は難しいと答えた。右担当者は、右の事情聴取の結果及び今後の対応を打ち合わせたい旨を上司に報告した。

(一八) 平成一二年四月二一日

原告は、本件訴訟を提起した。

2  本件事実関係によれば、拓銀は、平成六年二月に本件当座貸越契約を本件分割弁済契約に切り替える際に、貸付額を当時の貸越残高八一一九万二〇〇〇円とすべきであるのに本件当座貸越契約の貸越極度額である八四〇〇万円とし、結果的に二八〇万八〇〇〇円の本件差額を上乗せしたことになったところ、この取扱いは、本件根保証要綱一二項に違反することが認められるから、被告は、拓銀に対し、本件根保証約定書中の本件免責規定に基づき、本件保証債務履行について、その全部又は一部の免責を主張することができると解される。そして、この場合、免責の範囲(全部か一部かということ)につき更に検討を要することとなる。

しかしながら、本件において、被告は、抗弁として、右の本件免責規定に基づく全部又は一部の免責の主張ではなく、拓銀との間の本件免責合意に基づく全部の免責の主張をするので、以下、本件事実関係を前提として、その当否を判断する。

本件事実関係によれば、拓銀と被告との間で本件免責合意について両者間の合意書、拓銀の同意書等の何らかの書面が作成されていないことは明らかである。

そこで、被告は、本件免責合意があったことについて、右の書面以外の徴表として、①本件免責についての拓銀の口頭の同意、②平成一〇年一〇月一二日付け保証債務免責通知上にD支店長及びF課長の決裁印があること、③拓銀が本件債権譲渡までの間に本件免責通知に対し何らの異議を述べなかったこと、④本件債権譲渡通知の際の書面に譲渡債権につき信用保証協会付きの記載がないこと、⑤本件債権譲渡の際、譲渡債権は簿価〇円とされていること、⑥本件顛末報告書中の支店意見において本件を教訓として今後の事故再発防止に努める旨記載され、本件免責通知に異議がある旨の記載がないこと等を挙げるので、以下、右①ないし⑥の事由について検討する。

まず、右①については、被告は、具体的には、平成一〇年一〇月七日、E課長が、F課長に架電し、被告の正式決定として本件保証債務につき全額代位弁済を拒否する旨を伝えた際に、F課長が「やむを得ません。」と答えたことが同意に当たると主張し、証人Eもこれに沿う供述をするが、証人Eの右供述のみではF課長が右の回答をしたことを認めるには足りず、他にこれを認めるに足りる客観的証拠はない。仮にF課長が右の回答をしたことが認められるとしても、右の回答が本件免責に同意する趣旨であると認めるには至らないし、そもそも本件支店の課長にすぎないF課長の右の回答をもって拓銀が本件免責に同意したと解するには無理があるといわなければならない。

右②については、本件事実関係のとおり、平成一〇年一〇月一二日付け保証債務免責通知上のD支店長及びF課長の押印は、右通知の回覧の確認にすぎず、これを本件免責に同意した決裁印と解することはできない。

右③については、拓銀が本件債権譲渡までの間に本件免責通知に対し何らの異議を述べなかったことは事実であるが、そのことをもって本件免責に同意したものと認めることはできないし、また、この場合に同意を擬制する法令又は契約上の根拠は認められない。

右④については、事実であるが、主債務者である大久保工務店への本件債権譲渡通知の書面においては、譲渡債権の特定に必要な記載があれば足り、信用保証協会付きの記載まで要するものとは認められないから、右の記載がないことをもって本件免責に同意したものと認めることはできない。

右⑤については、事実であるが、譲渡債権の簿価は、譲渡債権の回収可能性その他の事情を考慮して評価されるものと認められるので、譲渡債権の簿価が〇円とされていることをもって本件免責に同意したものと認めることはできない。

右⑥については、事実であるが、本件支店が拓銀東京管理部に本件顛末報告書を提出したことから明らかなように、本件免責の問題は、本件支店限りで処理することができる問題ではなく、拓銀東京管理部その他の拓銀本部内において処理されるべき問題であると認められるから、本件顛末報告書中の支店意見をもって本件免責に同意したものと認めることはできない。

以上のとおり、被告主張の右①ないし⑥の事由は、本件免責合意があったことについての徴表足り得ないというべきである。したがって、被告主張の本件免責合意を認めることはできない。

なお、被告は、被告のする信用保証契約においては、金融機関との間で免責の合意書を作成したり、金融機関から免責の同意書を徴求する実務上の取扱いはしていないと主張するが、仮にそのような実務上の取扱いがあるとすれば、それが本件紛争を招いた原因ともいいうるのである。公的信用保証機関である被告においては、免責の合意又は同意の有無を巡る後日の紛争を回避するためにも、免責の合意又は同意を書面化して明確にするように努めるべきであり、そのような取扱いをすることに格別の支障があるとは認められない。

二  以上によれば、被告は、原告に対し、本件保証契約に基づき、保証債務履行請求金七六〇三万四四一〇円及び右請求後の日である平成一〇年一〇月一三日から支払済みまで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金の支払義務がある。

よって、原告の本訴請求は理由があるからこれを認容することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法六一条を、仮執行の宣言につき同法二五九条一項を各適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 吉戒修一)

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